Dream Sketch #1
恐ろしいバケモノとの戦いの後、何もない空間の中に、ちっぽけなボクは放り出された。
あれから、とても長い間深い眠りについていたような気がする。
ある時、突然目が覚めた。
ボクの名前を呼ぶ懐かしい友達の声が、すぐ近くで聞こえた。
「いやー、大変だったな、お前。よく帰って来てくれたな!」
みんなが口々にそう言った。
どうやら、僕は無事に元の世界に帰ってこられたようだ。
僕は大事なことを思い出した。
親友の女の子……さっき声をかけて呼び起こしてくれた男の子のお姉さんに会いに行かないと。
彼女は僕のことをいつも心配してくれて、ずっとそばにいてくれたから。
無事に帰ってこれたって、早く報告しなきゃ。
ねぇ、キミのお姉さんは?
「……は?ねーちゃん?俺には姉ちゃんなんていねえよ。」
……え?
「どうしたんだよ、お前。ずっと眠ってたし、変な夢でもみてたのかもな」
……何か、ヘンだ。
そのあと、村の人と話をしたり、歩き回ったりして様子を見てみたけれど、
僕の知っているミホビレッジとは、何かが少しずつ違っていた。
「あんたが魔物と戦う戦士だって? そりゃあ、あんたの見てた夢の話なんじゃないのかい」
僕は魔物と戦える唯一の戦士……ではないのだという。
そもそも、この村には魔物なんて一度も出たことがないらしい。
「王様? ああ、昔はいたらしいけどね。そんな迷惑な王様がいるんだったら、みんなに文句を言われて追い出されてるだろうね」
僕にさんざんいじわるをしてきたあの「国王」も、この村にはいないらしい。
……ここは、どこ?
ぼくの知っている場所…………じゃない。
「まあ、色々戸惑うのも無理ないかもね。キミはほんの数か月前にここに来たばっかりなんだし」
そんなはずはない。
……僕は、確かに元からこの村の住民であったわけじゃない。
でも、数か月とかじゃなくて、もっと前からここにいたはずだ。
みんなに「いない」と言われた、僕の親友。
僕が、この世界にずっと前からいたっていう証。
みんなに「ない」と言われ続けても、ぼくは一人で探し続けた。
……探してただけなのに。どうして。
気が付けば、僕は独りぼっちになっていた。
「あんたはさぁ、何かにつけて夢の話をしてくるよね。だから、この村じゃそんなやつはいないし、君もただの村人なんだよ。いい加減、夢から醒めたらどうだい」
「お前また勇者気取りかよ? そんなの、今の時代にはいないっつーの」
「おーい、聞いたか? あいつ、また変なこと言い出したぞ! 村のみんなに言いふらして恥ずかしい思いさせてやろうぜ!」
こんな世界、ぼくが居て何になるの……?
ああ、あの暖かい世界に帰りたい。
僕がよく知っているあのミホビレッジに帰りたい。
誰か、助けて。
帰れないのなら、このまま消えてしまいたいよ。
あの青い空に、
星が小さく瞬く夜空に……
空に溶けて
消えてしまいたい
一人で夜空を見上げてたら、僕の周りが全部夜空になった。
あの時……バケモノと戦ったときと同じように。
そしてまた、深い深い眠りについた。
暖かい暗闇の中に僕はいた。
闇の中の温もりを感じ取った時、どこからかとても懐かしい声が聞こえてきた。
「おかえり。ずっと待ってたのよ」
それは、僕がずっと探していた親友の声だった。
「おっ、村を救った勇者サマのお目覚めだ! みんなを呼んでこよう!」
……ねえ、ここはどこ?
「ミホビレッジにあるあなたの家よ」
……じゃあ、きっとあれは、僕が見ていた悪い夢だったんだ……
この世界すらも、あの夢の続きだったことを知ったのは、それからずっと後のことだった。